近代哲学者ジャン=ポール・サルトルが書いた傑作の1つ『嘔吐』。本記事では
おすすめされたはいいけど、小難しそうで読む気になれない
あらすじとか魅力だけ教えてほしい!
といった方に向け、本書の概要と魅力について分かりやすく紹介していきます!
『嘔吐』について
『嘔吐』は1938年に出版された、主人公であるアントワーヌ・ロカンタンの日記調で物語が展開されていくのが特徴の小説です。
本作は、チェコ出身の有名小説家フランツ・カフカの影響を受けているとみられ、1964年にはノーベル文学賞に選ばれましたが、サルトル本人が辞退したことでも有名です。
その内容は、30歳になった主人公ロカンタンが、彼自身が好んだ研究から愛する女性との関係、紙くずから小石に至るまであらゆるものからの正体不明の嫌悪感に苦しめられる様子とその理由についてが大筋となっています。
『嘔吐』というタイトルの意味
※以下ネタバレを含みます。自分で読んでみたいという方は次項まで飛ばしてください。
かなりインパクトのある題名ですが、実際に読んでみるとタイトルの意味がよく分かります。
物語が進むにつれて主人公ロカンタンが感じる謎の嫌悪感・吐き気の正体に彼自身が徐々に勘付いていくストーリーになっており、その正体はあらゆる事物からもたらされる実存的不安そのものでした。
実存的不安とは、例えば「死への漠然とした恐怖」「人生には意味などないという不安」などの、具体的な脅威ではない、限りなく抽象的な人間の存在そのものへの不安などを指します。
それが人間だけでなくあらゆる存在からもたらされるのは、モノは本質が実在に先立つという人間とは真逆の性質の対比によるものだからです。
話が難しくなってきましたが、次項で掘り下げて説明しますので完全には理解できなくとも大丈夫です!
物と人の実存的差異
『嘔吐』を理解するにあたって、サルトルが考える「物」と「人」の違いを理解しておく必要があります。
物はそれが生まれるより先に本質があるのに対し、人にはそれがないということです。
消しゴムは初めからそこに存在していたわけではなく、鉛筆で書いた線を消すという役割(本質)をもって生み出されたものですが、人間は生まれてきたあとでその本質が形成されていくといった具合です。
もちろん、なかにはピアニストやプロ野球選手になることを親に切望されて生まれる子もいますが、人の本質は職業ではありませんし、最終的には本人の自由意思に委ねられています。
人はその本質を人生を通して作り上げていきますが、サルトルはそれが自由であるがゆえに人は不安や焦燥感に駆られ、何者かにならなばという強迫感を感じることを「人間は自由の刑に処されている」と表現しています。
『嘔吐』を読むことをおすすめしたい人
『嘔吐』は、自分の価値観や人生観を大きく変えてくれるほどの影響力を持つ名作ですが、人の内面に関わる描写が多く、人によっては読むのを断念してしまうこともままあります。
経験上、「宇宙や生物(人)の存在意義・生きる意味・死後の世界」のような答えのない漠然とした物思いにふけることのある人、心の中に人とは分かち合えない精神的孤独を抱えている人にはすんなり入ってきやすいので強くお薦めします!
新版の方は旧版よりも柔らかい表現が多く読みやすいので、気になった方はぜひ一度手に取ってみてください!
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