物理学という学問が創設されて以来、「初めの条件が定められれば、その後の物質の状態や運動はすべて確定される」(決定論)という原則があります。
この話題を巡って、量子力学の始祖エルヴィン・シュレディンガーが提唱したのが「シュレディンガーの猫」という思考実験の存在でした。
今回はそんな、物理学の法則に異議を唱えた革命児「シュレディンガーの猫」についてご紹介していきます。
「決定論」と量子力学
「シュレディンガーの猫」を紹介するにあたって、シュレディンガーの猫が覆すこととなった古来からの常識「決定論」について理解しましょう。
まずは条件の設定です。例えば①斜面の角度が60℃の滑らかな坂に、重さ3㎏の鉄球を置くや、②20℃の水を100g用意し、ガスコンロで30分間加熱するなどがそれに当たります。
この条件を設定した時点で、①であれば「鉄球はある程度の早さまで加速し、等速直線運動をする」という結果が確定しています。
②であっても、「水の温度は100℃まで上昇し、○○㎎の水が蒸発する」という結果が確定しており、計算で求めることもできることもできるというのが「決定論」となります。
学校で習った物理の授業を思い出してもらえれば分かりやすいですね。
このように、「条件が定まれば、わざわざ実験する必要もなく結果が分かっているというのは当たり前のように思う。」
という認識そのものが「決定論」という言葉が意味するところです。
シュレディンガーの猫とは?
では、物理学の常識である決定論を考える上で、「シュレディンガーの猫」というのはいったいどのような存在だったのでしょうか。
実験の内容は以下のようなものでした。(分かりやすいように一部を原典から改変して説明します。)
『まず、密閉された箱の中に生きた猫と50%の確率で毒が発生する装置を入れる。この時、観測者は箱のなかの様子を確認できない。1時間後に箱を開け、なかの様子を確かめる。』
というものです。屁理屈のように見えるかもしれませんが、確かに条件を設定したにもかかわらず、結果が確定していません。
さらに、この実験のミソともいえるポイントとして「観測者が中の様子を確認するまでは、箱の中にA.生きている猫とB.死んだ猫が重ね合わせで存在している」ことがあります。
この概念が、量子力学という学問を考える上での重要なポイントとなります。また、量子力学という分野が広く認知されるきっかけともなった興味深い点なのです。
量子力学とは?
「量子力学」という分野について聞き馴染みのない方もいると思うので、簡単に説明します。
量子力学は、物理学から派生した学問の1つで、扱う対象をより限定したものになります。
量子力学において考える対象は主に「量子系(電子などのミクロな物質)」と呼ばれます。
量子系がそれまで物理学で扱ってきたものと異なるのは、観測するたびに状態(物理量など)が変化するという性質です。
その変化は時間や作用素(数学的な空間解析の1つ)に依存することが分かっており、基本公式であるシュレディンガー方程式(波動関数)などを用いて量子の状態を確率的に予測するのが「量子力学」の基礎となります。
シュレディンガーの猫と量子力学
「シュレディンガーの猫」問題は、量子力学(特に決定論に関する)の観点から2通りの解釈がなされています。それは以下のような内容です。
- 1.装置や猫に影響する各要素を波動関数を基に分析していけば、実験前に結末を予想できる(決定論的解釈)
- 2.猫の状態は観測されるまで確定しておらず、観測という行為そのものが波動関数を収束させて猫の状態を決定するため、観測前には結果は確定していない(非決定論的解釈)
1については前項からイメージがつくと思うので説明を省略しますが、2はどういう意味なのでしょうか。
簡潔に言うと、この非決定論的な解釈においては、「波動関数」はそれ自体で完結しており、確率的な分布を想定することはできるが、あくまで結果は観測によってもたらされることを指します。
かくして「シュレディンガーの猫」問題は、量子力学の理論によって、「装置や猫に影響する要素を分析していけば、実験前に結末を想定できる」。という決定論を支持する量子力学者と、
「観測という事象そのものが重なり合った猫の状態を決定する」という非決定論者との論争に一石を投じることになったわけです。
まとめ
今回は量子力学とシュレディンガーの猫について紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
これまで量子力学について知らなかった方からすればかなり難しかったかもしれませんが、新たな学びのきっかけになってくれたなら幸いです。
ほかにも興味のある記事があればぜひ足を運んでいってください。それでは!
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